目を閉じて
空を見上げる
きっと空は青くて
きっと雲は白くて
そして
とても綺麗なのだ
−色の無いここで−
あれは、いつの日だったのか。
気付くと、目に映るものが全て色あせていた。
華やかな色。
渋い色。
優しい色。
どんな色も、色あせて見えた。
そう言うと、すぐに検査を受けさせられた。
けれど分かった事はただひとつ。
「正常」だということだけ。
どこも悪くないし、感覚が鈍っているわけでもない。
色もきちんと識別できるし、視力が悪くなったわけでもない。
ただ、色あせていただけ。
春の新緑も
夏の日差しも
秋の紅葉も
雪の白さも
ただ、目に映るだけ。
それだけ。
目を閉じれば、そこは暗い世界。
ぼんやりと赤いような、黒いような、光と闇を感じるのみ。
だから、俺は目を閉じる。
あの景色は、この世界にしかないのだと。
いつかあの人と見た、泣きそうになるくらい綺麗で。
今でも心が痛むほど、鮮烈で、強いあの想いが。
もう、目に見える世界には、どこにも存在しないのだから。