愛される子ども


愛されない子ども


愛すべき子ども













−愛しい子−













「主は…ワシが守ってやる…」


たとえ、気付かれなくとも。
報われる事などなくとも。
身体を癒す事しか出来なくとも。



…そう、思っていたのはいつの事だったか。
孤独を抱え、愛される事を知らなかった子ども。
守るのはワシだけだった…はず、なのに。
















「おいおい、まだ盃に残ってるぜぇ?飲め飲め」

「飲め…というより舐める…では?」

「めんどくせぇなぁ。堅い事言うなって、ヒアシ」

「あまり騒ぐとナルトが目を覚ます」



一体、この状況は何だ…?



思えばワシにしては迂闊だった。
今更悔やんでも悔やみきれないにも程がある。

いつものように暴力を受けた子ども。
最近は一部の変わり者等によって少なくなっていたが、無くなったわけではない。


耐え切れなくなった。
泣く事もせず、ただ息を詰めて呻く事もせずにいる子どもに。


気が付くと、ほんの爪の先ほどのチャクラが、実体を作っていた。
普通の狐の一回りほど大きい姿で。






そして…見つかった。
あろうことか、この上ないほどやっかいな奴らに。
















傷は治っても、血は消えない。
このままにしたらやわい肌がパリパリになってしまう。
そう思い、愛しい子どもの血で汚れた頬を舐めているところを。

いくら九尾といったところで、この状態ではろくに守る事さえできないのだ。
殺意を込めて威嚇をすれば、返って来たのは意外なほどの言葉。


「…でけぇ狐だな」

「九尾…か」


そういって、こいつらは気にする事無く子どもに近づき、手当てを始めた。
間に合わなかった…と悔しそうな顔をしながら消毒をしていくのは顔に傷のある男。
今度の奴はどうしてくれようか…と無表情で包帯を巻いていくのは、瞳に特徴のある男。
「変わり者等」の内の二人。












「…これは…?」


手当てをされた後も起きる気配の無いナルト。
今は眠っているらしく、ヒアシの膝に抱かれたまま穏やかな寝息をたてている。
一方、自分の目の前に置かれた盃。


「飲めないのか?」

「いや…そうではないが…」


なみなみと注がれているのは、奈良が持ってきた酒。
九尾を恐れるどこか酒に誘うなどとは。


「確かに里を襲ったのはお前だ。
 だが、原因は我ら人間にあることくらい知っている」

「それになぁ、お前はナルトを害するどころか守ろうとしてたしなー」





――――――……。





「こやつが死ねば、ワシもただではすまぬゆえ」


どこか気まずい。
九尾ともあろうものがたった一人の小さな子どもにほだされるとは。


「だが…」





「「「可愛いからな」」」





綺麗に揃った二人と一匹の声。
ゲラゲラと笑う男と、口元だけで笑う男と、酒を舐めはじめた狐。







愛しい子ども


大切な子ども


我らの子どもに幸あれと