忍が死ぬ時
何も残さない
形あるものはすべて
想い出という中だけに
−残思−
もしも俺が死んだらさ、俺が生きてた時間、全部お前にやるよ。
誰の記憶の中でもなく、お前だけの想い出の中にいるよ。
ずっと前に言われた言葉。
顔も覚えてないけど、その言葉だけは覚えてる。
好きだ、と赤い顔をして気持ちをくれた男。
罵られる事には慣れていても、好きだと言われた事は無くて。
仲間っていう好き?
聞いた俺に、困ったような顔で首を振った。
その表情に、嫌われた、と思ったけれど、今では違うってことが分かる。
お前が好きだよ。
守りたいし、守って欲しい。
一緒に居て欲しい。
俺がお前を笑わせてやりたい。
お前の安心できる場所になりたい。
俺の隣で生きてて欲しい。
ひとつひとつ、ゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐ。
その声が心地よかった。
「して欲しい」ばっかだってばね。
素直にそう言えば、また困ったような顔。
だけど今度は少し頬を赤くして、きゅっと顔を引き締めて、もう一度言った。
好きだ。
返した言葉は
「ごめんなさい」
俺ってば「ナルト」だから。
一緒に生きてくことは出来ないんだってば。
生きる事は難しくて、いつ死が目の前にくるか分かんない。
俺が安心できる場所は、俺の隣は、誰かが居ちゃいけないんだってばよ。
嬉しかった。
ただ嬉しかった。
涙が出るほど。
だから、俺はあそこで「うん」って言っちゃいけなかったんだってば。
涙で瞳が潤んでた。
俺だけじゃなくて、二人とも。
伸ばされた手を振り払う事は出来なかった。
きっと温かい腕なんだろうと、ドキドキした。
一度だけ、俺の身体に腕をまわして、力を込める。
言葉の通り、一度だけ。
ぎゅっ…と。
大切で
愛おしむように
離したくないと
どのくらいの間そうしていたか分からないけれど。
力が緩んだ瞬間、温もりが離れた。
数日後、慰霊碑に忍の名が刻まれた。
忍が死んだ時
何も残さなかった
形あるものもすべて
想い出という中だけに
約束通りに。
貴方を想う、この気持ちだけを。