好き

好き

好き











−君はぼくの−











「シノ!」

「…ナルト」


気配を感じなかったわけではない。
ただ、名前を呼ばれるのがこんなにも心地よいものだとは今まで知らなかった。



その声で。
その顔で。
ナルトに。



嬉しさを滲ませる声には「好き」だという気持ちが込められていて、慣れないその感覚に自然と身体が熱くなる。
思わず緩んでしまいそうな口元を人知れず引き締めながら、けれど瞳だけは優しく。


「ナルト」


名前を呼んだ。



俺はナルトが好きで、ナルトは俺を好きで。
ただそれだけのことなのに、気持ちが同じ方向を向いているだけなのに。
こんなにも幸せで。





























「シノ?考え事だってば?」


並んで歩くナルトが早足気味になっている。
気付いて歩幅を緩め、スピードを落とす。


「…む」

「何かあったってば?」


心配そうな顔つきで覗き込まれる。
ある意味深刻を言えば深刻だが、別段悪い事を考えていたわけではないので、ゆっくりと首を振った。
ナルトがよかった、と言うように目を細めるのを見て、自然と口から零れた言葉。










「俺にナルトをやる」

「…は?」

「…ん…違った…」

「え、何?何!?」










わけが分からないと言うように首を傾げるナルト。
というより、自分でも今のは失敗だった、と思う。
無意識な緊張とは恐ろしい。
心の中の声も実際に声に出しそうになる。

























「ナルトに俺をやる」


























自分の中では一世一代の告白だったように思う。
むしろこれは求婚の言葉と言っても過言ではない。
だが、返ってきた言葉は、これっぽっちも実は密かに期待していた甘い返事などではなかった。


























「…い、いらないってば!!!」


























シノが衝撃に立ち直り、「何故だ?」と聞くまもなく走り去る背中を見送ってしまったことに気付いたのは、
ナルトの姿が見えなくなってから数分後の事だった。





求婚は…結婚はまだ早すぎたのか。
あと数年待っていた方が良かったのか。
というよりもナルトが俺を好きだと言ってくれたのは何かの間違いだったのか。



いや、違う。



あいつはいつも真剣で、正直で、嘘はつかないし、つけない。
だったら何だ…!?







「ナルト!!」







消えていった方へ、ナルトの家の方向へ。
草の生えた地面を強く蹴り、走り出した。


































トントン

「ナルト」

トントントン

「ナルト」

トントントントン

「ナルト」

トント…


何度目かのノックでやっと顔を出したナルト。
その目にはしっかりと水の膜が張られていた。


「…な…んだってば…」

「ナルト」


泣かせたいわけじゃない。
悲しませたいわけじゃない。


「笑え」

「…シノ?」

「泣くな」

「…くれるって言ったり、笑えとか泣くなとか…わけわかんないってばー!シノのばかー!ばかー!」


それでも少し、泣きそうだった顔の目に力が戻っただけでも来てよかったと思う。
あの場所でずっと立っていたら、きっとこの子は泣いていた。
声も漏らさず、静かに涙を流していたに違いない。


「ナルト」

「シノ…シノはもっと分かりやすくしゃべった方がいいってばよ!」

「ナルト」

「…だから何だってば」

「好きだ」

「…!!」

「好きだ」





口元だけで笑うと、ナルトが小さく震える。
赤くなり熱を持った首筋に触れ、上を向かせた。





真っ赤になった頬にキスをする。
もう片側にも。
鼻の頭。
両方の目蓋。
今は隠れていない額。
こめかみ。
小さな顎を甘噛みして、最後にそっと唇に触れた。





「シノ…」

「分かってる」

「違うってば…俺…俺…」


ふるふると頭を振るナルトを腕の中に閉じ込め、耳元で囁く。














「大丈夫だ、俺はナルトを貰うから」









当然だと言わんばかりのシノに、目を見開いたナルトは思わず破顔し、再び自分よりも広い背中に腕をまわして思い切り抱きついた。