01:インプリンティング

幼い頃の小さな思い出は、もうずっと心の奥に仕舞われたままになっていて。
でもどこか切なくて、愛しくて、細胞が覚えているみたい。
大きな手は、恐怖の対象でしかなかったけれど。
優しい手を俺はどこかで知っている。
断片的ですらないものばかりだけど、あのきらきらしたものだけは忘れてないんだ。
今もこうして手を伸ばせば、その銀色は微笑ってくれるから。



02:万年発情期

「ナルト、先生はな、前世はウサギだったに違いないと思うんだよね」
「は?何言ってんだってば」
休憩している野原に寝そべりながら、俺たちの担当上忍がしみじみと呟いた。
「…とうとう日和やがったか?」
米神をひきつらせながら言ったサスケの言葉はどうやら耳に入っていないらしい。
僅かに滲ませる殺気にも、目の前のナルトだけを熱っぽく見つめるカカシには通用しないのが尚腹立たしい事この上ない。
「ナールトー」
まるで構ってと言わんばかりに擦り寄るカカシにどうしたらいいのか分からず、ナルトは困ったようにサクラの方を向いた。
「…先生?構ってくれないと淋しくて死んじゃうなんて言ってるつもりですか」
年甲斐も無く。とは心の中だけに留めておく。
「甘いなサクラ、それ違う」
ふと真面目な顔をするカカシを、珍しいものでも見るかのように三人が見つめる。
「ほら、ウサギって年中発情してるって言うじゃない?」
「「「……」」」
あまりの言い様に揃って意識を飛ばす中、流石というべきか、いち早く回復したのはサクラだった。
「ナ、ナルト!早くこっち来なさい!」
焦ったようにカカシの腕の中で未だ呆然とした様子のナルトに呼びかけるが、時既に遅し。
「え…サクラちゃ…ぎゃー」
「んー、相変わらず抱き心地いいねーお前」



03:曖昧な感情

「ナルトは俺のどんなとこが好きなの?」
いい年をした男が頬を染めながら聞いてきた。
「…どんな…?」
「そう」
どんなところと言われても…漠然としていて考えれば考えるほど出てこない。
「せ、先生は俺のどんなとこが好きなんだってば?」
「全部」
誤魔化すように問い返せば、返って来たのは自惚れ覚悟で半分予想していた答えそのもので。
あまりにも堂々ときっぱり言われ、恥ずかしいというよりもこそばゆい。
「お前は?」
「…うー」
「ひとつくらいはあるデショ…?」
しょぼんと肩を落とすカカシに、慌てたようにナルトは首を振った。
「違うんだってば!」
「…」
「どこがいいかとか、そんなこと考えた事ないんだってば…」
良いところと悪いところもいっぱいあるし、けど良いところが好きなとことは限らないし、悪いところが嫌いとは限らないし…
もごもごといいわけのような事をしゃべり続ける俺を見て、何故か先生は頬を染めて嬉しそうな顔をしていた。
後で聞いたら「それはナルトが俺だから好きって事でしょ?」なんて言われて。
…やっぱり俺にはわかんないってば。



04:打つけた小指

「んあっ…くぅ…!」
前方不注意、足元不注意。

「お前…どんな勢いでぶつけたのよ…?」
歩くたびに顔をしかめるナルトを強引に膝の上に抱き、調べてみれば、足の小さな爪が割れていた。
「もうほとんど治ってるってばよ」
「消毒した?」
「…へへ」
仕方ないなぁ、とポーチを探り取り出した消毒液。
「…さんきゅ…だってば」
「まぁ、流石にここ舐めたらお前怒りそうだしネ」
本当は舐めて消毒したかったんだけどねーと何でもないことのように話すカカシ。
「…!この、変態がー…っ!」



05:言葉じゃ計れない気持

小さな身体を抱きしめる。
ただそれだけのことだけど、それはとても心地よい。
生きてる鼓動、ぬくもり、五感全てで相手を感じる。
「せんせ」
甘く名前を呼ぶ声も。
「せんせ…せんせ…」
耳元に掛かる吐息も。
「…っ!だから人の首を舐めるなー…っ!」
調子に乗りすぎて、たまに殴られる事もあるけれど。
だからやめられないネ。



06:無知の知

難しい事は分からないけど。
たとえば俺が嬉しい時ってどんな時だったっけ、とか考えてみんの。
笑うときとか、照れるとことか、幸せなときとか。
そういうときってやっぱりどこかキョウツウテンとかいうやつがあるから。
一楽でラーメン食べるとき。
誉められたとき。
手ぇ繋いだとき。
いっこいっこ思い出して考えると、そこにはいつもいるんだってば。
ねぇ、カカシせんせー。



07:理性と衝動の均衡

クナイを持った手が震える。
するどく舌打ちをして、目前に迫る敵を薙ぎ払う。
恐怖とか、痛みとか、そんなものではないものが頭の中で増殖し続けるのを止められないのだ。
里を離れて数日。
もはや身体が限界だと悲鳴を上げていた。
ちらちらと視界の端に写る金髪に手を伸ばしかけるが、その手をぎゅっと握り締めてやり過ごす。
「ナルト…」
「駄目だってば」
「…ナル」
「しつこいってばよ!」
そうは言っても、既に震えがくるほど我慢に我慢を重ねているのだ。
しかし、愛しい恋人は同じ班員の前ではどうにも恥ずかしいらしく。

これっぽっちも触らせてくれない。

以前、どうにも耐え切れなくなり何かが切れたカカシがナルトに抱きついた際には、数日間口も聞いてもらえなかったのを思い出す。
あれは…ほん、本当に辛かった…。
そして今日も、早く里に帰ってナルトを構い倒す為、カカシは頑張るのだ。



08:使い古された台詞

「ナンバーワンより…オンリー…ワン…?」
「あぁ、一番よりもあなただけってやつデショ?」
「せんせーも?」
「俺?…そうだなー」
「せんせーは違うってば?」
「俺の独占欲なめてる?そんな台詞じゃ足りないに決まってるでしょ」



09:一期一会

ナルトの優しいところとか、強いところとか、可愛いところとか、愛らしいところとか、可愛いところとか可愛らしいところとか。
まぁ、つまりは可愛くて仕方ないのですが。
つまりもう俗に言うメロメロってやつなんですよ。
俺の任務完遂最短日数(むしろ時間)を先日更新したのも、ひとことナルトのはにかんだ「おかえりなさいってば」が聞きたかったからに違いないし。
プレゼントにしたって「別にいらない」と、せんせーがいればいいんだって、ばなんて言う子なもんだから、そのかわりの料理の腕が上がる上がる。
元々器用な上に溢れんばかり、漏れ出すばかりの愛が詰まっているおかげで毎回好評で。
時には2人でキッチンに立って一緒に料理するなんて今では至福の時間のひとつです。
そして今、まさにその醍醐味とも言えるシチュエーションが目の前に広がっております。
え、これ何かの罠ですか?ばりの美味し…い、いや…とにかくあれです。
「味見ー。せんせ、はいってば」
と、ナルトがしてくれてるんですよ。

はい、アーン、と。

エプロンにキッチンに笑顔でアーンですヨ?
普段恥ずかしがって食事中でもしてくれないというのに。
それが、箸も使わず、直接、指で。
これは指ごと舐めろって言ってるようなもんデショ。
ははは、いただきまー…

「あ、鍋が噴いてるってばよーーっ!」
「…っ!?」

慌てて火を止めるナルト。
鍋を持ち上げるのに邪魔だったのだろう。
ナルトの口がもごもごと動いているのは、先ほどまで手にしていたもののせいに違いない。

はたけカカシ、もしかすると一生に一度の機会を失ったのやもしれません。
…ちくしょうめ…!



10:人生交差点

右にする?
左にする?

「あれだね、俺はきっと道を間違えなかったんだと思うよ」

前に進もうか?
後ろを振り向こうか?

「ま、どっちにしてもナルトに出会わない道はなかっただろうけどね」

手を伸ばそうか?
呼び止めようか?

そしてあの手を掴みに行こう



11:気まぐれの野の小鳥

じっとしてると寄ってくるのに。
触ろうとすると逃げるんだ。
でも、捕まえない。
飛べる事が自由だ何て思わないけど。
それでも。
緑の木々と、吹き抜ける風と、青い空が、お前達の居場所だから。

「閉じ込めて、捕まえたらきっとお前は今のお前じゃなくなるから」
「何言ってんだってば?」
「んー?何でもないヨ」
「でも大事な場所は必要だってばよ」
「んー?」

だって、この腕の中にいるだけでこんなにも幸せだもの。

「…お前時々凄いこと言うね」
「うるせってば」



12:色眼鏡

めずらしいものが出てきたの、とサクラが持ってきた一枚の写真。
「…サクラちゃん、ちっちゃいってばね…」
「当ったり前でしょー!昔の写真なんだから」
「…これ…ナルトか?」
黙って写真を見ていたサスケがその隅を指差した。
「そうなのよ!ナルトって小さい頃の写真って無いじゃない」
それがたまたま写っててビックリしたわよー!と、はしゃぐサクラの手の中にあったはずの写真が突如消えた。
「きゃ…って…カカシ先生…」
「…ーっ!!」
「…ど、どうしたんだってば?」
「おい、カカシ…」
写真を凝視しながら小刻みに震えるカカシの様子に、サスケが訝しげに声を掛ける。
だが、さりげなく鼻元を拭った担当上忍の真面目腐った一言に、言い様のない脱力感に襲われた。

「こんなに可愛い子、よく今まで無事だったと思う」

「先生、とうとうおかしくなったのかしら」
「…あいつは元から変態だ」
「サ、サクラちゃん…サスケ…」



13:洗濯日和

「うし、これで終わりー」
パンッと皺を伸ばして洗濯バサミで止める。
心地よい日差しと爽やかな風はきっとすぐにでも乾かしてくれるだろう。
一仕事終えた満足感に浸っていると、ハタハタと揺れるシーツの向こうに見知った顔があった。
「せんせー」
「…」
手を振って呼んでみても反応が無い。
「…せんせー?」
どうしたのだろうと見てみると、どうやら何かを一心不乱に凝視しているらしい。
首を傾げてその視線を追ってみれば、それは今しがた干し終わった自分の洗濯物で。
そうこうしているうちにカカシの口が何かを呟いた。
「…ツ…」
「はぁ?何言ってるん…」
「ナルトの…パンツ…」

ナルトがせっかく干した洗濯物を大慌てで取り込んだ事は言うまでも無い。



14:憂いの口元

「サクラちゃん…」
「あら、どうしたのよナルト」
しょんぼりとというより、少々げっそりとした様子のナルトに、サクラは怪訝そうな目を向けた。
同期であり同チームの少年がこんな風になるのは珍しい事だ。
さては何かのっぴきならない事でも起きたのだろうかとうつむいた顔を覗き込めば、今にも零れ落ちそうな涙。
「ちょっ…ちょっとナルト…!?」
「ま…毎日…家にいると…だ、誰かいるような気がするんだってば…」
「…は?」
言いながら、その時の恐怖を思い出したらしい。
とうとう大きな雫が目から零れ落ちる。
「よな…夜中…うぇ…っく…夜中に目が覚めたら…な、なんか…ゴソゴソ横で動いてて…」
「…あんのクソ上忍が…!」

その日の午後、里が誇る一人の忍にサクラの鉄拳が下った。



15:絵空事

噂なんてあてにならないわ。
え?何?あの先生の実力?
そうねぇ…確かに忍としては一流よ、たぶん。
数え切れないほど先生の話は聞くもの。
忍としての実力とか、頭脳とか、身体能力とか…
けどね、同じくらいあの変態っぷりを聞くとねー。
あ、女の人には凄くもててるわよ?
けどほら、それは先生の見た目とか地位とかでしょ?
でも、あんなの私達に言わせればただのナルト馬鹿よ。ナルト馬鹿。
1にナルト、2にナルト。3、4もナルト、5もナルト…みたいな。
きっと6あたりに木の葉の里がくるんじゃないかと思うわよ。
まぁ、あんだけ愛されればナルトも本望じゃない?
触らぬ神に祟り無し、よ。