助けて

助けて

助けて





















10 どうかそんな悲劇が起こる前に俺を殺してくれはしないだろうか





















耳に響く音がうるさい。
悲しみと憎しみと恐怖の入り混じる声。
ビクン、と足の痙攣で目が覚めた。


うっすらと影を作る月の光からして、まだ夜中なのだろう。
二、三度瞬きをしてから、のそのそと起き上がって自分の手のひらを見た。
握りすぎて白くなった手は、まだじんわりと痺れている。
額に張り付いた髪の毛を振ると、こめかみから伝う汗がシーツに落ちて染みをつくった。
妙に喉が渇いているのは、寝ている間中叫んでいたのだろうか。


夢か現実か。


使い古された言葉を小さく呟き、自嘲する。
おそらくアレは過去。
この身体に巣食う九尾と、この里の記憶。

悲鳴や怒号といった負の感情がそこには溢れていて。
聞こえるはずの無い人々の思いは、視ている自分の精神にまで入り込んでくる。

少しずつ
少しずつ

ゆっくりと鉄が侵食されて錆ていくように、心にこびりついて離れない。



あれは九尾。
でも、これは俺。














強くなりたいと思った。
強くなって、誰にも負けない力が欲しかった。



他人にも、自分にも。



けれどそんな強さは何にもならないことに気付いたのはいつのことだったか。



俺は弱いままでいい。
ドベで、皆の足手まといのままでいい。

強さなどいらない。
俺は弱いままでいい。




本当はいつも九尾を感じてた。
温かいようで、切ないようで、胸が締め付けられた。
もう、どこまでが九尾で、どこまでが俺だか分からない。










どれほどの怪我をすればこの身体は朽ちるのだろうか。
どれほどの病に冒されればこの身体は病むのだろうか。
どれほどの憎しみを受ければ、この精神は壊れるのだろうか。










いつか、九尾と俺が一緒になった時。
俺が俺で、九尾が九尾でいられなくなった時。
















お願いだから。


助けて。


お願いだから。


俺を殺してあげてください。