あなたはとても優しくて
あなたはとても明るくて
あなたはとても強くて
でも
あなたはとても嘘つき
02 貴方にだけはどんな時でも笑っててもらいたいから
「俺ってば火影になるんだってばー!」
「ちょっとナルト、あんたまだそんな事言ってんの?」
「ドベが…はっ、そんな暇あったら修行でもしてろ」
「何ー!サスケもサクラちゃんもシツレーだってばよ!」
「あー、はいはい、とっとと任務終わらせような、お前ら」
「カカシせんせー」
ぎゃいぎゃいと騒ぎながら通り過ぎる一団を見つけると、そこには金髪のあの子。
「うずまき…頑張ってるようね」
「紅先生?」
「ヒナタ…それにシノもキバもよく聞きな」
部下である3人に向かって、一瞬辛そうな表情をした担当上忍が、常とは違う雰囲気で目線を合わせた。
「たぶんこれから…いや、もう既にかもしれない。
あんたたちは、この里の現実を見る」
静かな声でそう言うと、もう姿は見えない7班のいる方向を見つめて眉をしかめた。
「はぁ?何だ、それ?」
「…里の、現実…」
キバとヒナタがそれぞれ違った反応を見せるが、紅はそのどちらにも答えずに続ける。
それはまるで、自らの罪を告白するかのように。
「火の意思…火影の力、そして里。
このバランスを保っているのも、今ここに存在するのも、里の英雄のおかげであることを、忘れないで」
「…里の英雄って…過去の火影のことか?」
キバの言葉に赤丸も同意するように一声鳴いた。
相棒を一撫でして誉め、先ほどから黙っているシノに顔を向ける。
「…シノ?」
「それは…慰霊碑の…英雄達か?」
シノでさえも無表情ながら疑問を感じているらしい。
真剣な顔をして、紅に尋ねた。
だが、それにも答えはくれなかった。。
「…あんたたち、強くなりな」
ただそう呟くと、紅は寂しそうな、けれどどこか意思を感じさせる笑顔を浮かべて立ち上がった。
その日の帰り道、昼間見た金色の子をまた見つけた。
「…ナ、ナルト…くん」
「あ、ヒナタ?どうしたんだってば?こんなとこで」
名前を呼ばれて肩を揺らすと、何事も無かったように振り向いた、顔。
明るい笑顔で、ヒナタに会えたのが嬉しいという顔で…傷だらけの身体で、ナルトは笑った。
「……っ!?」
「ヒ、ヒナタ?」
胸が苦しい。
心が切ない。
喉まで出掛かっている言葉は形を持たなくて。
代わりにハラハラと涙が落ちた。
「女の子泣かすなんて最低だってばー…ヒ、ヒナタ?泣かないで?」
頭を抱えて動揺するナルト。
声も出さずに涙を流すヒナタの背中を躊躇いながらも包み、ゆっくりと手のひらでさする。
「ナル…ナルトくん…」
「何だってば?…あ、これじゃヒナタまで汚れ…」
「ち、違っ…!!」
ナルトが血と埃で汚れた身体をヒナタから離して動こうとした時、服の裾を強い力で掴まれる。
見ると、そこにはしっかりと服を掴むヒナタの、白く小さな手。
「け、怪我…してる…ナルトくん」
「…大丈夫だってばよ?このくらい。直ぐに治るか…ら…?」
手を離し、ごそごそとポーチから救急セットを取り出す。
普段のおどおどとした態度とは違う確かな手際で手早く消毒を済ませると、薬を塗って包帯を巻き始めた。
「…いっ…!!」
「あ!ご、ごめんなさい…い…痛かった…?」
「…俺ってば強いからヘーキ!!」
ニカッと笑い、「さんきゅー、ヒナタ」と言って手当てをされた自分の身体をを眺める。
「ヒナタってば器用だなー…」
「……」
「え?何だってば?」
「……き」
感心したように手際を誉めるナルトに、ヒナタが小さく呟いた。
「うそつき」
再び涙を滲ませた瞳で、ヒナタはナルトを見た。
そんな笑顔が見たいんじゃないの
そんな言葉が聞きたいんじゃないの
そんな態度がされたいいんじゃないの
「笑ってよ」
「…ヒナタ?」
「笑って欲しいの」
「俺ってば笑ってるってばよ?」
「ち、違う…私は…私はナルトくんに笑って欲しいの!」
「…」
「笑おうとして笑うんじゃなくて、笑って欲しいの」
「ヒナタ…」
「私に見せてくれなくてもいいの…ただ…」
「ヒナタ!」
強く呼ばれて、身体がビクリと震えた。
「ヒナタ」
「…ご、ごめんなさ…」
「謝んなってば」
「ご、ごめ…あ…」
「…っぷ。ありがとうな、ヒナタ」
それはきっと
眩しいくらいに輝いて
それだけで幸せになるくらい
いつか、笑ってください。
あなたの、心からの笑顔で。