必死に叫ぶ声を聞いて

目に映る全てのものが真実じゃない

泣いてるあなたも

笑うあなたも





















04 あんたらにあの仔の痛みが分かる?





















無邪気に笑う顔。
真剣な表情に心臓が大きく音を立てた。














あの子が一人で涙を流すところを初めて見たのはついこの間のこと。
誰も居ない森の中で、薬草を摘む手を休めると、何か微かな気配を感じたような気がした。
人か動物か、それとも気のせいか。
そのくらい分からない気配に近づいていった自分を、誉めてあげたい。



だって、あの子を見つけた。


































さわさわと揺れる草の中で、穏やかな表情で眠る子ども。
月の明かりはうっすらと影を作り、風が髪を撫でていた。


「…ナルト?」


小さく呼びかけるとぴくりと身体が震えた。
起こしてしまったかと思うが、どうやら反射的に反応しただけらしい。
すぐ傍まで近寄っても起きる気配はない。



眠る頬には涙の跡。
濡れた睫には透明な雫。





「あんた、忍者でしょうが」





あきれたような声にも拭いきれない感情が込められていたのが自分でも分かった。













































「狐」


「狐だ」


「何故お前がここにいるんだ」


「化け狐」




















ナルトの腹の中の九尾について、公に公表された日。

里の中にも、ナルトの家にも、あの子の姿はなかった。









今更なんだというの。

今まで耐えて、耐えて、耐えてきたのはあなた達じゃない。

笑っているあなた。

あの子を蔑んでいるあなた。

あの子はとても綺麗なのに。

誰よりも優しいのに。



















































「ナルト!」


やっとナルトの背中を見つけたのは日が暮れてからだった。
薄っすらと闇が近づいてくる中で、金色の髪が微かな光で輝いている。


「…イノ」

「あんた、ずっとここにいたの?」

「…そうだってば」


同年代の仲間よりもはるかに華奢な背中をまるめて座るナルトは、抱え込んだ膝に顔を押し付けたままこちらを見ない。
小さく震える身体は、寒さだけのせいではないだろう。





「ナルト」

「…」

「ナルト」

「…何だってば」

「ナルト」

「だから何だってば!」

「ナルトよ、あんたは。うずまきナルト」

「…イノ」

「違うの?」

「…違わないってば」

「だったら良いじゃない」

「…」

「私はそれで良いのよ」

「…うん」

「さ、帰るわよ」

「ん」





繋いだ手のひらはとても熱くて、温かくて。
この先もずっと、私はこの手を離さない。