何者の追随も許さず

追うことも遮られ

ただ独り

闇の中で立ち尽くしている





















07 そうまでして欲した強さに一体どんな意味があるというの





















暗部に入って約半年。
昼間は下忍任務をしながら、そこそこの任務をこなすのにも慣れた。
睡眠時間があまりとれないことが美容に悪いわ、なんてことは覚悟の上。
自己管理くらいできてあたりまえだもの。



だって、早くあなたに会いたい。























まだアカデミーに通い始めた頃、いつもみたいにその日は猪鹿蝶の三人で遊んでいた。
たまたま人気のない森の中で夢中になって騒いでいると、突然森がざわめいた。

親達が親達なだけでに、同年代の子供よりかは精神的にも肉体的にも鍛えられていたが、それも下忍程度。
かなりの勢いで近づいてくる、明らかに敵わないと思わせるような気配。


「チョージ、イノ…できるだけ気配消せ」

「うん」

「分かったわ」


ほとんど意味のないほどの最後の足掻きは、やっぱり少しも役に立たなくて。
三人寄り添って、目の前の忍を睨みつけた。
震え出しそうな身体を抱きしめて、思わず小さく呟く。


「こんなとこで死ぬなんて冗談じゃないわ」


まだ何もしてない。
下忍にすらなってないし。
恋だってしてない。
信頼できる新しい仲間も欲しいし。
まだまだやりたいことが山ほどある。


「山中、奈良、秋道の子どもだな」


それは質問と言うより確信を持った確認。
こういう場合、大抵殺されるのではなく連れ去られる事が多い。
このまま大人しく連れ去られ、助けを待つもの良いだろう。


だが、自分達はこれでも忍なのだ。


物心ついた時から。
もしかしたらそれ以前から。


ギリギリまで勝機を伺おう。
けれど、里を出る瞬間には覚悟を決めてる。
こっそりと視線を合わせ、小さく頷いた。
























忍たちの手が、まさに自分達に触れようとした瞬間。
その声が響いた。


「ねぇ、それ持っていかれると困るんだけど」


気配を感じさせずにいつのまにかそこにいた一人の暗部に、忍達が微かに動揺したのが分かった。


「…はっ!!」


その機を逃さず、イノは予め毒を塗っておいたクナイを投げた。
シカマルは後ろに飛び、チョージはイノと背中合わせになる。


「やるじゃん、お前ら」


緊迫した空気に似合わない声音で、先ほどの暗部がシカマルの横に降り立った。
とりあえずこの暗部が味方であることは確かだ、とシカマルは思った。
その証拠に忍がすでに地に伏している。


「シカマル!」

「ちょっとあんた何ぼけっとしてんのよ!」

「…イノッ!チョージッ!」


平常心を取り戻した忍達が二人にいっせいにクナイが投げ、シカマルが思わず声を上げた、その時。
今まで横にいたはずの暗部が消え、気付くと今まで殺気を放っていた忍達が何も言わない塊へとなっていた。

辺りに立ち込める慣れない血の匂いに顔をしかめつつ、イノは助けてくれた暗部を探す。
木の枝に立っている暗部を見つけてお礼を言おうと口を開きかけた瞬間、数枚の木の葉を散らして暗部が消えた。



























それから数年、あの時の事を忘れた時などない。










そして、今。
目の前にはあの時の暗部がいる。
数年経ったというのに、姿も声も変わらずにそこにいる。








暗部の任務で、ついに待ち望んだあの人と同じ場所に立つ事が出来た。
興奮と、緊張と、それでも冷静さだけは失わないように、足手まといにだけはならないように、任務はちゃくちゃくとこなしていったはずだった。


「…!?」


気付くのが一瞬でも遅くなったのは、おそらくその武器を投げてきたのが味方だったはず人物であったからに違いない。
それでも、避けれないと多少の傷を覚悟した、その時。
痛みの代わりに感じたのは、近すぎる位置にあの人の気配。
かばわれる様に腕に包み込まれていた。


「…あ、ありがとうございま…」
「気を抜くな」

目の前で倒れていく人影を見ながら言うと、返ってきたのは温度を感じない言葉。
赤くなった頬から血の気が引いていくのが分かった。
失望されるのは、怖い。


「すみません、ありがとうございました」
「それはもう聞いた」
「今度は、こんな失態は見せません」
「…そうか」



「もっと、頑張ります」
「…お前は強くなりたいか」

瞳に込められた強さに気付いたのか、静かに問いかけられた。

「えぇ」
「何故」
「今は強くならなくちゃいけないので」
「…?」
「隣に立ちたい人がいるから」
「隣に…?」



憧れだけじゃない。
それでも、この人の隣にいたいのだ、と思う。


「その人は、私よりも遙かに強いけれど、隣に立って…守っていきたいんです」
「それほど強いなら守らなくとも…」
「いいえ、守られるだけは性に合わないの」





「誰も守れない強さなら私はいらないわ」

「そうか…そうかもな」

「でしょう?」

「…あぁ」




少しだけ、暗部の仮面の下で笑ったような気がした。